午前五時。

ベランダの窓から見上げる空はまだ漆黒の闇だった。

綾乃は燦汰に後ろから抱きしめられた格好で床に座り、窓の外を見上げていた。燦汰は頭から毛布をかぶり、綾乃の体を包み込んでいる。素肌が触れ合って、心地よい暖かさが全身を包んでいた。

「樹くんから電話をもらった時はびっくりした」

燦汰が綾乃の耳元で囁いた。

「あの子、燦汰に電話したのね」

綾乃はパジャマを羽織って立ち上がると、リビングのサイドボードに置かれた固定電話の前に立った。
電話のすぐ上の壁には、緊急時の連絡先一覧が貼りつけてある。
樹のために電話のかけ方を書いた貼り紙だ。

<こわいことがあったとき・110、けがやぐあいがわるくなったとき・119。ままのくすりやのでんわ・03−××××××、ばあばのおうちのでんわ・03−××××。ままのなまえ・そかべあやの。このおうちのじゅうしょ・きたくあかばね××××。>

───一体あの子がどうして、見ず知らずの燦汰に電話を?

張り紙から視線を下ろし、綾乃はふと目を止めた。
固定電話と、横に置かれたペン立ての隙間に、金色のカードが挟み込まれるように立ててあった。

指先で拾い上げればそれはホストクラブ「紫檀」のホスト、燦汰の名刺で、漢字表記の下に大文字のゴシック体で「SANTA」とあった。

樹は紫檀も燦汰も読めないはずで、アルファベットと電話番号だけを読み取ってサンタクロースの連絡先が書かれたカードだと思ったのだろう。綾乃のバッグから見つけたようだ。

「樹はサンタクロースに電話したつもりだったのね」

綾乃が名刺を見せると、燦汰はうなずいた。

「俺は慌ててサンタを演じたよ。樹君さ、ママにプレゼントをくださいって言ったんだ。ママはいっつもいい子に頑張ってお仕事して、ご飯も作ってくれてるから、ママが一番欲しいものをくださいって。・・・こんなプレゼントじゃだめだったかな」

燦汰が言った。綾乃は首を振った。

「すごくうれしかった。たとえ今日だけのことだとしても、あたし絶対忘れない」

言うなり涙がこぼれた。いつの間にか綾乃は、疲れ切っていたようだった。燦汰の優しさに触れたとたん、気が緩むと同時に涙腺が解けてしまったようだ。